私が十代前半の時、父の同級生が列車事故で亡くなった。私も顔を知ってる
人で、両親の会話を驚いて聞いていたのだが、父の次の言葉にもっと驚いた。
「ほたるを養子に出してたら、あいつは死んでなかったかも知れないなあ。」
この男性には子供がなく、ある時まだ幼児だった私を養子にくれと言われた
そうで、父はそれを冗談だと思って笑いながら「おう、いいぞ。」と答えて
しまった。後日背広を着て正式に挨拶に来た男性に、父は驚いて畳に手をつ
いて謝ったそうだ。
昔は子供のいない夫婦は養子を迎えることが多かった。しかし今は養子を育
てるよりも、不妊治療で子供を持つ人が増えた。
先日厚生労働省より、不妊治療費用助成制度の変更の発表があった。
助成額の引き上と、所得制限の撤廃。事実婚のカップルも対象になるという。
朗報ではあるが、これですべて解決と手放しで喜べる人ばかりではない。
実は日本の場合、外国に比べて不妊治療の成功率は意外と低いのだそうだ。
我が子がまだ小学生の時のこと。同じ校区に養護施設があり、夏冬休みは一般
家庭への一時預かりが行われていた。ある年、私も申し込んだところ「子供達
の気持ちを考えて、顔見知りのいる同じ校区のお宅はお断りしてるんですよ。」
と、申し訳なさそうに言われた。そして、出来れば施設ではなくきちんとした
家庭でずっと暮らさせてあげたい、というようなことも色々話してくれた。
日本は外国に比べて養子縁組数が非常に少なく、もっと養子縁組制度や里親制
度に目を向けてほしいと願う声は今も変わらない。ちなみに“養育里親”の場合
は国から経済的な支援があり、短期委託も可能だそうだ。
※養育里親=子供を一定期間預かり育てることで、親子関係は生まれない。