[内容]
暴力事件により脳に損傷を受けて、後天性のサヴァン・共感覚者となった男性
の半生が語られている。 副題は『サヴァンと共感覚の謎に迫る実話』
[感想]
友人達と奔放な毎日を送っていた著者は、31歳の時にバーを出たところで
強盗に遭い、殴る蹴るの暴行を受けて脳に大きな損傷を負った。
直後から心的外傷後ストレス障害、強迫性障害などのために3年間引きこもり
となり、幼い娘の訪問が唯一の楽しみという日々を送る。
あちこちの病院で検査を受け、研究者と話すなどして最終的に出された結論は、
“共感覚とサヴァン症候群を最初に得た人間”というものだった。
物の見え方が変わり、全てのものが幾何学的な図形として意味を持ち、強迫
観念のように数字に対する執着が起き始める。原因を解明する為にネットな
どで調べ続け、現象を理解し専門用語で説明する為に35歳で大学に戻った。
ある時から円周率に対して強い興味を抱くようになり、円周率が描けるよう
になると次々と他の図形も姿を現したという。常に視覚的な図形が見えている
そうで、本書にも著者が描いた図形が幾つか載っており、次のように語る。
「世界は完璧で秩序立っている」
「円というものは実際には存在していなくて、円周は実はジグザクである」
「稲妻、海岸線-(略)-DNA鎖も、この宇宙のもの全てがフラクタルである」
※フラクタル= 一部が全体と自己相似な構造を持っている、反復性のある
幾何学的図形のこと
ペインクリニックでの瞑想で痛みが軽減したことから、瞑想に関しても多く
の頁が割かれており、瞑想と催眠術には薬物治療と同じ効果があるという。
最後にサヴァンの世界的権威に会いに行き、その結果今は、自分の脳損傷の
ことを話せない人達の代弁者になりたいと考えているそうだ。世界のサヴァン
と共感覚者の実例も沢山紹介されていて、こちらも興味深く読んだ。