[内容]
脳梗塞で重度の障害を負った世界的な免疫学者が、自らの思いを綴った闘病記。
[感想]
倒れた後、深い眠りの中で死の国をさまよう夢(?)を見ていた著者。目覚めた後、
声を失い右半身不随になっていることに気付いた時は、恐怖ですすり泣いたと
いう。まだ67歳で、世界を飛び回り講演や雑誌の連載など予定がビッシリ詰ま
っていた。40年習ってきた小鼓も、もう打つことが出来なくなった。
喉のマヒによる嚥下困難で、僅か数㏄の水で溺れる。自力で排泄が出来ず、便
をかき出してもらう時の叫びたいほどの苦しみ。寝返りが出来ないので一夜のう
ちに手足は固まって、麻痺した方は抜けるように痛い…等々。 脳梗塞は、いつ
又我が身に起きてもおかしくないと思って読んでいた私には、恐怖の内容だった。
もし機能が回復するとしたら、それは再生ではなく新たに創り出されるものだと
捉え、自分の中に生まれつつある“新しい人”を「寡黙なる巨人」と名付けている。
奥さんも医師で、その後麻痺の体では不便だからと、新たに住まいを購入してい
る。地位とコネがあり治療の面でも優遇されており、やはりこの辺は庶民とは違う。
リハビリに関しては、「科学のないリハビリは百害あって一利なし」「人材育成の
努力が足りない。」と、手厳しい。しかし優秀な理学療法士に出会い、半年ぶりで
自分の足で一歩を踏み出した時は、私も思わずもらい泣き。
著者は、健康だった時よりもその後の方が、真剣に充実して生きたと言う。そして、
色々なことに気付き 「歩キ続ケテ果テニ熄 (や)ム」という答えを見つけている。
後半の内容は、小林秀雄や尊敬する恩師のことなど多方面に渡り、ベランダに来
る雀を、夫婦で気にかけてる話には ほっこりした。
最後に診療報酬改定の問題点を指摘し、「これは立派な国家の犯罪である」と
一刀両断。自ら署名を集めて厚労省に渡している。