昔から魑魅魍魎(ちみもうりょう)と呼ばれる妖怪の話があるが、彼らはあ
くまでも空想の世界の住人だ。だが山河には本当に、人智の及ばない領域が
在るようだ。
これも50代の時のことで、時間にしたら数十秒のことだと思うが、私には忘
れられない出来事の一つだ。
昼間一人で居た時、意識だけが突然 洞穴(どうけつ)のような場所に飛んでし
まった。寝ていたわけではない。
それは(日本国の)人の入り込めないような山奥の、その山の更に中心部分に
存在していた。大きさは、部屋で言うと30畳くらいか。
出入口は無く、漆黒の闇なのに3つの黒い物体が重なっているのが見えた。
人間や動物とは全く違った形をしていて、強いて言うと岩に近い。
私も驚いたが、あちらも突然現れた私を見て、驚いた目をしていた。
(目も3体分あり、上手く説明できないが今迄に見たことの無い形だった。)
不思議なことに恐怖は感じなかった。しかし関わってはいけないと思い、すぐ
に空(クウ)を袈裟懸けに切ったところ、一瞬で部屋に戻った。
何を考えていてそんな事になったのかは思い出せないが、誰かが見せてくれた
のだと思っている。又あれらの存在を知ってる人は、結構いるのではないかと
感じている。
あれ以来、山や海には人間が踏み込んではいけない領域があり、開発のし過ぎ
は動物だけではなく、人間自身にも害を及ぼすのではないかと、そう思うよう
になった。