[内容]
1954年、第五福竜丸以外にも沢山の漁船が死の灰を浴びていた、その事実を
追ったドキュメンタリー。
[感想]
著者はテレビ局ディレクター。アメリカが太平洋のビキニ環礁で計6回の水爆
実験を実施した時、新聞に被曝を取り上げられたのは、第五福竜丸だけだった。
だが実は、この実験が行われた場所はマグロ漁場のど真ん中で、調べる内に第五
福竜丸以外に延べ一千隻の漁船が同じように被曝していたことが分かってきた。
本書には「被曝した992隻の船の魚の廃棄が命じられ、廃棄マグロなどは48万
6千トンに達した。」「放射能検査は1954年のわずか10か月で打ち切られ、魚は
安全だとしてその後も漁が続けられた。」と書かれている。
アメリカの公文書には、世界中に降灰があった事と、その総量も載っているそうだ。
しかしこの事件は、1955年に日米間の補償金200万ドルでピリオドが打たれ、
第5福竜丸以外の被害状態が、調査されることは無かった。
著者は、色々調べて辿っていく内に、一人の元高校教師のもとに行きつく。
その人は長年独自にこの事件を調べていて、「ビキニ事件はまだ終わってない。」
と言って、沢山の資料を見せてくれた。
その資料と、著者が10年近くの歳月をかけて漁民やその家族にインタビューを重
ねたことにより、末端の乗組員は被曝によって健康を損ねても、何も保障されなか
ったという事実が明確になった。その内容は映像化されて、著者は多くの賞を受賞。
証言者の「ひとことでも言ったら、ここでは生きていけんかった。」の言葉が重い。
高知県の元漁船員と遺族らが国家賠償を求めていたが、昨年12月に二審も敗訴。
現在全国で何十件もの原発訴訟が起きているが、こちらも司法の壁は厚そうだ。