20歳を少し過ぎた頃のこと。
商店街を1人で歩いていたら、見知らぬ老人(男)に声を掛けられた。
「財布を落として帰れなくて困ってる。千円でいいので貸してくれませんか。」
薄汚れた身なりに哀れっぽい顔、目には涙を浮かべている。
私はすっかり同情して、返さなくてもいいですと千円札を渡した。
老人は「有難う。」と言いながら、何度もペコペコと頭を下げて去って行った。
ふと見たらお店の人達が、私を睨みつけながら何やらヒソヒソ言っている。
「え?何?私?」と戸惑ったが、誰も私に声をかけることは無かった。
それからおよそ一月後。あの商店街で、あの老人とバッタリ出くわした。
あの時とはまるで別人のようで、ズボンのポケットに両手を突っ込み、足取り
軽く口笛まで吹いていた。
だが私を見た途端、驚いてピョンと飛び上がって、今来た道をとって返した。
まるで下手なドタバタ喜劇のような一連の動作に、私はただ口をアングリ。
多分私が千円札を渡したあの時、商店街の人達はお爺さんだけではなく私の
ことも、「あんな人間がいるから…。」と苦々しく思って見ていたのだろう。
確かに私も大概バカだったけど、若いもんが騙されるのを黙って見ていたお店
の人達の態度も、感心できない。
お爺さんの様子・金額・場所、全てが寸借詐欺の典型で、今では(苦)笑い話だが、
詐欺かなと思った時は、[交番で貸してくれますよ。]と言うのがいいらしい。