当時私は、1日に30分程飼い猫を外で遊ばせていた。(現在は完全室内飼い)
その日も昼頃にナナ(小柄な婆ちゃん猫)にせがまれて、玄関のドアを
開けたのだが、外を見た瞬間私は立ちすくんでしまった。
景色が一面 薄く青みがかっていたのだ。しかも温かく穏やかな天気なのに
空気がシンと冷たい。近隣の家の息吹も、全く感じられなかった。
最初は体に突然不具合が生じたのかと思ったが、どうも違うようだ。
不安を感じた私はすぐにナナを抱え上げ、これはいったいどうしたことかと辺り
を見回したら、物陰から鋭い目でこちらを見つめている大柄な猫と目が合った。
それは近所の若い飼猫(♂)で、以前ナナを追いかけまわして、腰に10針も
縫う大怪我をさせた奴だった。
それ以来、ナナが外に出る時は必ずそばに付いていたのだが、隙あらばと
ずっと狙っていたのだろう。私は慌てて玄関のドアを閉めた。
時代劇などでよく武士が殺気を感じるシーンがあるが、私はそれを、神経を研
ぎ澄ませていると気配を察知出来るようになるのだな、と思って見ていた。
しかし殺気というのはどうやら、漠然と感じる“気配”とは別モノのようだ。
証明出来ないのが残念だが、あんがい「気」を扱う専門家から見たら不思議
でも何でもない現象なのかもしれない。
いずれにせよ、猫でさえあそこまで空気を変えてしまうのならば、人間の
殺気とはどれ程のものかと思った。